「重力01」作品合評会(最終回)


■まとめ

鎌田 最後に、中島さん、そして大澤さんと沖さんにも聞きますが、今後「重力」はどうすればいいですか。中島さんはさっき、商業誌レベルでボツになる原稿は絶対にボツにする、つまり、商業誌でもやれる人があえて別 の場で書くのが原則だ、と言われたけど、その他に運動として持続し、腐敗しないための条件を教えて下さい。

中島 具体的に今すぐには思いつきませんが、さっきも言ったように創作レベルが弱かった気がするので、そこを強化していくことを考えないと、結局は鎌田さんと大杉さんの批評ばかりが目立つような雑誌になってしまうと思います。
 あと、スガさんが「02」に絡むということですが、それこそあまり「父」にしない方がいいのではないか。それでは『重力』の前提に反するでしょう。

大杉 そうだよな。最近スガさんも権威になってきたからね(笑)。

鎌田 それは『帝国の文学』の影響ですか。

大杉 というか、柄谷・蓮実の影が薄くなってきて相対的に出てきたのでしょう。世代的にも全共闘世代が今の若者の父親の世代ですからね。

中島 そんな話なんですか。(笑)。

大澤 僕は、出来の悪い作品は載せないという判断もある一方で、出来の悪さ自体から、あるいは出来の悪さを論じること自体から新しい関係性が出てこないかな、とも思うんですよ。

大杉 それは無名性、あるいは無名な固有名を重んじるという意味でも、最初の固有名/無名性の問題と繋がりますね。確かに「批評空間」みたいに、エリート主義的な雰囲気を作らないようにはしたいと思う。

大澤 普通どうしようもない作品は切られていくから、こういう試みは文芸誌では絶対にできない。それに作者を交えたざっくばらんな合評会というのも、けっこう実現が難しいんじゃないでしょうか。こういう場で──中島さんが来てくれて本当に良かったけど──徹底的にくだらないものはくだらないと言いあえばいい。それで本当にくだらないものを書いたら、その人がこの先もう書けない(書かなくてもいい)くらいの緊張でやるならば、僕はいいと思う。
 それと問題は新参加者をどう募るかだと思うんです。僕の場合は、鎌田さんが雑誌を出すと聞いたときからずっと興味を持ってたのですが、その後あるきっかけでお会いしたとき、小説を読んで欲しいと頼んだのです。快諾していただいたので、僕はそれを「重力」への投稿として送りました。その作品が「書き直す」という条件つきで、掲載の許可をいただき「02」に参加することになったわけです。僕の参加の経緯はこんな感じです。誘われたわけではないし、投稿と言えば言えるけど、決められたシステムを通 したものではありません。この問題を解決しないと、読む人は「重力」に対して不信感を持つと思う。

鎌田 「02」では最低でも投稿募集はやるし、そうでないと機会の均等とは全然言えない。ただ、僕達はまず自分を心配すべき存在なんで、対等にやれる参加者や寄稿者を探す、そういう感じが僕はいい。批評をほめてもらったけど、大杉さんも僕もこのレベルで止まっていたらまずいでしょう。実際、僕は色々なところにエネルギーを割きすぎて「重力」に専念できなかったから、まず原稿のレベルでがんばります。――それから、西部さんは「『重力』には社会科学がない」とよく言っていた。では文学はあったのか、と僕は思うんだけど、この点沖さんはどうですか。

 おそらく僕は西部さんとはだいぶポジションが違います。西部さんは最終的には良識ある経済学者なんだと思います。良識ある経済学者は「重力」に参加したり、合評会に出てきたりしないんです(笑)。西部さんがいま「重力」をどう思っているのか、ということを考えると距離をとる理由も分からないではない。「02」に参加しなかったのも忙しいだけではない気がします。

鎌田 いや、良識ある経済学者はQなんてやらないし、そもそも「03」以後で復帰し、連載を書く、という噂もある(笑)。西部さん自身が十分に参加していたか、という問題もあるけど、逆に彼の方でも「重力」の良識ある微温性が物足りなかった、とも言えるんで、僕はそれを沖さんにこなごなにしてほしいんです。

 西部さんとは違って、僕はこういうかたちで一般誌なり商業誌で書くことはこれまでほとんどありませんでした。一般 的にいっても学術論文なんて誰も読まないわけですが、マルクス経済学や宇野派──僕は宇野派ではないですが──になると、それに輪をかけて読者なんていないわけですよ。僕は単純にそういう意味で、多くの人に読んでもらいたい、ということがある。だから、微温的でない緊張感のある場で書くことができれば、そこに社会科学があるかないか、ということは僕にとってどうでもいい問題です。

鎌田 何か「01」の時の松本圭二みたい(笑)。でも、僕が読んだ限りでは、沖さんや大澤さんはすでに「存在」している。だから、読者には期待してくれ、と言いたい。

大杉 「重力」もそれほど売れないけれど、千部くらいは売れています(笑)。この合評の効果 でこれからも売れるかもしれない。すべてはこれからだと思います。

(了)