井土紀州+吉岡文平/ブルーギル(抄)

8 掘立て小屋・内

薄暗い小屋内に、板と板の間から光が差し込んでいる。
三人が床の上に座り込んで、夢中で雑誌のページを捲っている。
見ているのはエロ本だ。

マル 「(食い入るようにグラビアを見つめながら) ……あかん、チンチン痛なってきた」

バタやん 「(股間をさすりながら)お、俺も、何かションベン出そう」

コウがニヤニヤしながら二人を見る。

コウ 「お前ら、まだコイたことないんか?」

バタやんとマル 「?」

コウ 「(拳を握り)こうやって、チンチン持ってな……」

コウが身ぶり手振りで教えようとした時、
足音が近づいてくるのが聞えた。

コウ 「ヤバイ!」

慌てふためき、エロ本を持って、それぞれ小屋の隅の物陰に隠れる三人。
音を立てて板戸が開いた。
バタやん、マル、コウ、それぞれが息を詰めて入口を見守る。
入ってきたのは、年老いた警察官である。
老警官はフラフラと小屋の中央まで歩いてくると、跪くようにして座った。帽子を取って床に置くと、老警官は緩慢な動きで拳銃を取り出し、じっと眺める。
固唾を飲んでその様子を見つめる少年達。
と、老警官は安全装置を外して、おもむろに拳銃をこめかみに当てた。
バタやんが顔をそむける。
マルが泣きそうになる。
と、突然コウが叫びながら飛び出していった。

コウ 「やめろ!」

必死の形相で老警官の前に立つコウ。
老警官がコウを見る。その顔は虚ろだ。

老警官 「……」

コウ 「……」

張り詰めた空気が小屋の中に流れる。
呆然としながら、コウと老警官を眺めるバタやんとマル。
と、老警官はコウに向かって静かに拳銃を差し出した。

老警官 「……撃ってみるか」

老警官の顔は泣いているようにも、笑っているようにも見える。

コウ 「……」

コウは、金縛りにあったように立ち尽くしたまま、老警官の異様な雰囲気に完全に飲まれている。

9 同・外

バケツが転がり、地面にはバタやんたちの釣ったブルーギルが横たわっている。
パン!
銃声と共に、弾を撃ち込まれたブルーギルが粉々に飛び散る。
拳銃を構えたコウが立っている。その後ろに立つバタやんとマルは、どこか夢を見ているような、非現実的な表情をしている。老警官は、「それでいい」という感じで頷きながらコウから拳銃を取り上げ、次にマルに握らせる。
ブルーギルを狙い、緊張しながら引き金を引くマル。しかし、弾はうまく命中しない。老警官がマルの手に自らの手を添えて、拳銃を撃つ。今度は命中した。
最後に銃を握るバタやん。
パン!
ブルーギルの肉片が粉々に砕け散る。

10 同・内

外した床板を元に戻す老警官。その様子を取り囲むようにして、見守るバタやん、マル、コウ。拳銃を隠したのだ。
老警官がバタやんたちの顔をぐるりと見渡す。

老警官 「……ええか……将来、必ず、お前らのうちの誰かが、これを使うことになる。それまで、ここに隠しとくんや。誰にもこのことは言うたらあかん」

老人の異様な目に射すくめられて、固まったままの三人。

老警官 「ええな」

三人は、黙って頷く。
老警官は、三人に背を向けると、静かに小屋を出て行く。
三人は、呪文にかけられたように固まったまま、その後姿を見つめる。