大杉重男訳/エルキュリーヌ・バルバン、通称アレクシナ・B(抄)

 私は悲しく、当惑していた。……私の友の慰めるような微笑が時に私の魂のひどい苦しみを忘れさせた!……
 肉体の恐ろしい苦痛がやってきて、それ以来私の内面の苦しみと結合した。この苦痛はあまりなものだったので、一度ならず私は自分の存在が終りに達したと信じたほどだった。
 それは名のない耐え難い苦しみであり、私は後に知ったのだが、差し迫った危険を構成するものだった。私は途方もない奇跡によってそれから逃れた! 私はその苦しみをサラに打ち明けた。サラは私に医者に行くように強く勧め、さもなければ母に知らせるとおどした。しかし私は頑固にそれを拒否した。
 その苦しみは特に夜に現れ、それは私から叫び声を挙げる可能性すら奪った。私の恐怖がお分りだろう! 私はかくして嘆き声一つ上げることなしに死ぬかもしれなかったのだ!!
 この口実―それはあまりにも真実でしかなかったのだが―を幸いと、私はある晩私の友に私のベッドで一緒に寝てくれるように頼んだ。彼女はそれを喜びを以て受け入れた。私が私の傍に彼女の存在を強く感じたことの幸福を語るのは、不可能なことだろう! 私は喜びに狂っていた。 私は眠る前に長い間おしゃべりをした。 私は両腕を彼女の腰に巡らせ、彼女は顔を私の顔の近くに休らわせていた。神よ! 私は有罪なのだろうか? そしてここで私は一つの罪の廉で自分を責めなければならないのだろうか? 否、否!……この過ちは私の過ちではなく、私がそれに抵抗することのできない例のない宿命の過ちなのだ!!! サラは今後は私に属していた!!……彼女は私のものだった!!……物の自然な秩序において、私たちを隔てるべきものが、私たちを結びつけたのだ!!! もし可能なら私たち二人の状況を察して欲しい!
 二人の姉妹としての永続的な親密さの中で生きるつもりの私たちは、今や私たちをお互いに結びつけた恐ろしい秘密を、すべての人から隠さなければならなかった!!! そこには理解され得ない一つの存在があった。私たちが味わうはずの幸福は、ある予期しない状況において、日の目にさらされ、私たちの額に公衆の非難の烙印を刻印してはならないものだった。何という恐ろしい不安を私は彼女にもたらしたのだろう!
この夜の翌日は、疲れ切っていた。彼女の目は、赤く泣き腫らし、ひどい心配で眠れなかった跡が見えた。
 母の目聡い視線に立ち向かう勇気のない彼女は、朝食の間母の目を見れなかった。確かに私はサラよりも動揺していなかったが、目を上げてP…夫人を見る力はなかった。私を彼女の娘の友達としか見ていない哀れな女性、私は彼女の恋人であるのに!……
 一年はそんな風にして流れた!…
 確かに、私は良く分っていたが、未来は暗かった! 遅かれ早かれ、私はもはや私のものではない種類の人生と決別しなければならなかった。しかし、ああ! どうしたらこの恐ろしい迷宮から出たら良いのか? 私が神と人間の法が禁じる一つの地位、一つの称号を詐称していることを世間に公表する力が何処に見つかるのか? そこには私よりも頭のしっかりした人を混乱させるものがあった。この瞬間から、私はサラを昼も夜も離せなくなった!……私たちは、天に向かっていかなる時もお互いがお互いのものになること、つまり結婚するという甘い夢を見ていた。
 しかし何とそれを実行することから遠かったことか!
 あらゆる種類の計画が、次から次へとより奇怪なものになりながら、私たちの錯乱した想像の中に生み出された。結論に到るための唯一の方法として、一度ならず逃亡することを私は提案した。サラはそれを受け入れたが、すぐにそれを怖れと共に退けた。私の母への私の手紙には、私の恒常的な関心事の痕跡が目に見えて残っていた。母に告白することなしに、私はひそかに彼女に避けることのできない破局を覚悟させていた。母にとってそれは解くことのできない謎だった。彼女は私が狂ったと思うようになり、私に彼女の辛い不安を終らせてくれるように懇願した。そこで私は彼女を鎮めるように努め、そして彼女に新たな困惑を投げかけた。彼女の無知は、彼女をP…夫人に説明を求めることに駆り立てるかもしれなかった。それは特に私が心配していたことだった。そうしたらすべてが失われてしまう。
 当然ながら、私のサラとの関係は、生徒たちとの接する場面においても常に危険に満ちていた。
 私たちの関係が疑われる可能性はなかったとはいえ、私たちは守ることが難しい(特に私には!!!…)抑制の範囲にとどまらなければならなかった。
 しばしば、授業の途中で、サラの微笑が私を興奮させた。私は彼女を腕に抱きしめたかった。そしてそれを抑えなければならなかった!
 私は彼女の傍に、彼女に口づけをし、手を情熱的に握ることなしには、いられなかった。 夏は毎晩、私たちは生徒たちと共に、付近を散策した。
 私の友は私に腕を委ねた。私たちは畑に着いた。膝をついて草の上に座り、私は彼女から目を離さず、彼女に最も優しい称号、最も情熱的な愛撫を惜しまなかった…。
 確かに、もしこの場面に目に見えない目撃者が同席していたなら、私の言葉、さらには私の振舞いにひどく驚いたことだろう!
 そこから数歩のところで、生徒たちははしゃぎ回ることに熱中していた。彼らのすべての動きを監視する場所にあって、私たちは同時に彼らの視線 から免れていた! 私たちは同じ順序で帰った。時々道の途中で町長氏や医者と出会うことがあった。医者は学校と親しく、サラが産まれるのを助けた人物であり、彼女に真の愛着を抱いていた。彼は私たちに最も厚意に満ちた挨拶をし、私たちをとても喜ばせた。それは想像するに任せよう!!!
 私のL…における地位がいかに特異なものであったかについては、私の主任司祭との関係について考えれば分る。この地位はすごいものだったのだ!!!
 私はその地域で最も名誉のある家において、極度に微妙な信任された地位を占めていた。私は全体的で絶対的な権威を持っていた。その上、私が日毎にその新たな証を受け取っていた誠実な愛情を、私はこの家族のすべての人から捧げられて来ていた! そしてにもかかわらず私はそれを裏切っていた。この優しい若い娘、私の同僚、妹となったこの娘を、私は恋人にしたのだ!!!……
 よろしい! ここに私は私の文章を読む後世の人に審判を委ねることにする。私はすべてのアダムの息子たちの心の中にあるあの感情に訴える。私は有罪であり、犯罪を犯したのだろうか、ある粗雑な誤りが世界の中で、私を私のものではなかったはずの地位を割り当てたからといって?
 私は熱烈で、誠実な愛を以て、彼女のできる限りの熱情で私を愛した一人の女の子を愛した! しかし人は言うだろう、もし取り違えがあったにしろ、あなたはそれを公表するべきなのであり、それをこのように悪用するべきではない、と。私はそのように考える人に、状況の困難さを考慮するように勧める。